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UNKNOWN WORLD 戦略学者・奥山真司先生 特別編

『ONETES Plus』2026年4月19日号掲載の「UNKNOWN WORLD」特別編です。

情報誌『ONETES Plus』2026年4月19日号掲載の戦略学者・奥山真司先生の「UNKNOWN WORLD」の特別編としてWebでお伝えします。取材・構成/ブランニュー・金子裕美〉

自分の興味を追いかけてきた

--人生に目標となる人はいましたか。

奥山先生 好きなミュージシャンはいましたが、あの人と同じようなことやりたいなと思うような、ロールモデルになる人はいませんでした。今の自分があるのは、自分の興味を追いかけてきた結果なのだろうと思います。例えば、誰かと同じことをする、集団で何かをする、ということがすごく嫌いでした。誰かと同じことをやるという時点で冷めていました。地政学に惹かれたのも、「怪しい学問」と言われていたからです。怪しいってなんだよ。だったらやってやろうじゃないか、と思うような、あまのじゃくなところがありました。僕には、人間は汚いものだから、絶対にどこかで戦争が起こるし、悪いことも起こるという予感があったので、大学の授業で地政学が出てきて、「これは悪魔の学問なんだよ」「これは批判すべき対象だ」みたいなことを、リベラルなカナダで言われたときに、逆に反発心が生まれたというか。それを知らなければダメなんじゃないかと思ったことが、地政学に興味をもつきっかけになりました。

 大学時代に地理と並行して哲学も学んでいます。自分のメジャーは地理でしたが、それ以外の分野もいくつか学ばなければならず、何がいいかなと思ったときに、興味が湧いたのが哲学でした。なぜかというと、日本社会との違いを感じていたからです。コンピューター用語で言うと、いわゆるオペレーションシステムが違うのです。生まれ育った日本では、それほど感じなかったのですが、異国で生活してみると、社会は思想で動いていると感じました。特にカナダは移民の国、新しい国なので、その根幹にあるものを知りたくなったのです。そういうことに気づくと、日本人学生の多くは宗教を知りたいと思って、(カナダでは)キリスト教の勉強会や、クリスチャンの聖書見本会などに行くのですが、僕はそこじゃないと思っていました。当時、カナダに来るアジア人の学生の多くがビジネススクールに通っていました。仕事に直結する勉強がしたいからです。僕はそこにも全然興味が湧きませんでした。その哲学を学んでいるときに、勉強って面白いな、ものの見方って多角的なんだなということに気づいたので、哲学を選んでよかったと思いました。海外の大学には、社会人になってから大学に入り直す人たちがたくさんいます。僕が在籍した哲学のクラスも、クラスメイトの年代層がとても幅広く、まさに若い学生から、僕みたいな中間層の人間、さらに上の人たちが混ざって、すごくオープンに勉強していました。すでにリタイアしている髭面のおじいさんもいました。

 その当時は、検索システムもAIもなかったので、哲学の授業の前日までに、3、4冊の本を読んで臨まなければいけませんでした。これがなかなか大変でしたが、みんなに負けじと懸命に読みました。そして、授業では活発に議論しました。先生も「プラトンはここではこう言っているけど、それはどういうことだと思う?」などと議論を吹っかけてきます。すると、みんながパッと手を挙げて、次々に答えるような、ものすごくアクティブな授業でした。僕もなんとかついていこうと思って必死に取り組んでいるうちに、勉強って面白いな、考えを突き詰めるっていいなと思ったのです。僕がもう少し若かったら、ただやらされているだけで終わっていたかもしれません。25、26歳だったので、少し心に余裕があったのか、受け身にならず、自ら取り組むことができました。そうした実体験から、若いときにいかに勉強の楽しさに気づけるかが、一番大事なことだと思っています。

やりたくないことを明確にする

奥山先生 振り返ると、僕は自分がやりたいことよりも、やりたくないことのほうが先にあったのかもしれません。毎日同じ時間に電車に乗って通勤したくないという思いがすごく強くありました。それが「だから学問をやる」という動機になったように思います。どちらかというと、ネガティブな動機ですが、そうした考えを人に話すと、わりと多くの人が「自分の人生の中で、これだけはやりたくないというものを明確にすることは意外と大事だ」と言うので、その通りだなと思っています。

--たしかに、やりたいことよりも、やりたくないことのほうが認識しやすそうですね。

奥山先生 やりたいことを見つけるのは難しいですよね。僕もこれだ!というものを見つけられれば、絶対に第一人者になりたいという気持ちはありました。でも、自分が夢中になれるものをなかなか見つけることができず、音楽の道をあきらめると、何をやればいいのか、わからなくなりました。カナダに語学留学したのは、母の勧めがきっかけです。出張が多く、留守がちだった父には許可を取らずに行ったので、「お金ばかりかけて」と怒られました。日本でも(企業が運営する)地元の英語教室に通っていましたが、英語が得意だったわけではありません。当初は、2、3ヶ月の予定でしたから、その程度、語学学校に通ったからといって何が変わるのか、と思ったのではないでしょうか。僕自身もわからずに行ったのですが、英語圏の国で生活するには、当然英語をしゃべらなければいけません。友だちもできて、ベラベラしゃべっているうちに「その言い方、何?」などと聞きながら、単語や文法を耳で覚えていきました。テレビ番組も英語の勉強に役立ちました。もちろん、日本でもっと英語を勉強しておけばよかったと思ったことは何度もあります。日本で大学受験をした人たちが「受験勉強で覚えた単語が役に立った」とよく言っていましたから。僕はなんとかTOEFLのスコアをクリアして、大学に進学。そこで地政学と出会い、勉強することの楽しさを知りました。何より海外の大学を卒業できたことは、日本の大学を受験しなかった僕にとって、今につながるとても大きな出来事でした。

--何事も、きっかけとモチベーションが大事なんですね。

奥山先生 僕はたまたま手にしたチャンスを活かせたということもあると思うのですが、大学に入ってからは、しっかり学んで卒業したいという気持ちが、学びへの意欲になりました。その強い気持ちが学問を突き詰める原動力になって、身になったのではないかと思っています。地政学も研究分野の一つですが、国家が自分の国の安全を確保するために軍事力をどう活かすかという、広い意味での戦略研究を専門とする中で、僕は国際政治を動かしている人間に着目しています。イギリスの大学院に在籍していたときに、ロンドン大学の権威ある先生の授業を受けて、すごく影響を受けて、「もしかして人間はテクノロジーによって変わってきているのではないか」と思いました。考えてみれば、人間はワクチンによって生きながらえています。いわばサイボーグです。スマホによって人間の集中力が低下していることは、研究により明らかになっていますし、AIが浸透すれば、思考力の低下も危惧されています。テクノロジーによって、人間そのものが変えられているのです。どんな学問も突き詰めていくと、最終的に「人間(の本質)って何なんだ」というところに行き着きます。もしかしたら、AI時代の今、瞑想や座禅、読書などを取り入れることが推奨される、揺り戻しがあるかもしれません。そうやってバランスを取らざるを得なくなるであろう人間がつくっている、不完全な世界を直視していきたいと思っています。

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