学校特集
東京都市大学等々力中学校・高等学校2026
掲載日:2026年7月10日(金)
理想の教育像として、高貴なる紳士・淑女を意味する「noblesse oblige(ノブレス・オブリージュ)」とグローバルリーダーの育成を掲げている東京都市大学等々力中学校高等学校。教育理念は「共生・英知・高潔」ですが、活気あふれる授業の様子から、これらを涵養する教育の一端が見えてきました。その一例として、生物が専門の平山瑛一先生に同校の理科教育についてお話を伺いました。
自分自身の体験を学びと結びつける、
都市大等々力の「SSTプログラム」
東京都市大学等々力(以下、都市大等々力)では、2014年度から中1・中2の理科で「SSTプログラム(Super Science Todoroki Program)」を展開しています。この2年間の授業はほぼ実験と観察を行い、およそ100にも及ぶ「実験・観察」テーマを扱っています。
平山瑛一先生がこのプログラムで大切にしているのは「身近な生活や環境の中にも理科は潜んでいる」という気づきです。
「理科というものは、身の回りで起きている現象に説明をつける科目だと考えています。
例えば、駅から学校に歩いてくるまでの道端の草花で季節の移り変わりを感じたり、見上げた夜空の星であったり、もしくは力学だったり電気だったり、さらには自宅で料理をする際の食塩などの調理料の中にも理科は潜んでいます。日常のどこにでも理科はあるということを生徒たちにイメージしてもらえると、より一層理科を感じられて、説明できる力がついていくのだろうと思います」(以下、平山先生)
だからこそ、こうした気づきを重視した授業を展開している平山先生。「SSTプログラム」では「本物を見て、触って、確かめること」に重きを置いています。その理由について、こう教えてくれました。
「一般的な中学受験指導塾で学んできた場合、理論や言葉は知っているけれど、実物は見たことがないという生徒が多くいます。
そのため本校の授業では自分自身の体験や経験といった軸を持ち、中学受験で培ってきた知識をできるだけ補完してほしいのです」
中3以降では高校の範囲も学ぶようになり、大学受験を見据えた授業は難度を増していきます。しかし、ここでより輝きを発揮してくるのが「SSTプログラム」での経験です。
「"引き出しを作る"と我々は表現していますが、中1、中2の段階でどれだけ実体験を豊富に用意できるか、それを彼らの中にいかに知識としてストックしておけるかを大切にしています。
中3や高1を教えていて、例えば『これって中1の時に実験でやった内容だよ』と伝えると、彼らは "先生が何かを燃やして臭かった"といったような、エピソード記憶として思い出して、知識と結びつくようです。そうした反応から関連させて、学びを深めていくことができるのです」
「種をたくさん蒔いておいてよかったと思います」と笑う平山先生。主体的に授業に参加し、自分自身で手を動かした経験をベースとしてその現象を考えることができる、実感を伴った学びが展開されています。
活発な授業の中で、
自分なりの結論まで辿り着く思考を培う
取材に伺った日、中1の生物の授業を見せていただきました。電子顕微鏡の使い方を復習するという内容で、校内のビオトープから採取した水にどんな微生物が生息しているのかを観察します。採取して数日経った水と採取したての水を混ぜることで、時間経過により、生息する生き物が変化し、多様になっていくのだそうです。
真剣な眼差しで電子顕微鏡を覗く生徒たちは、水面の生物たちの多彩さを改めて実感し、驚きを隠せません。その小さな生き物の大迫力の姿に、一部の生徒からはちょっとした悲鳴のようなものも上がりますが、生き物が大好きな平山先生は、生徒たちに彼ら(生き物)の魅力を熱弁します。
「生徒たちが自分自身の目で見たものに対して、これはなんだろう、どうしてこうなっているのだろうと感じる気持ちを大事にしたいと思っていて、積極的に質問しやすい環境づくりを意識しています。
主体的に取り組まざるを得ない授業なので、生徒からも自発的に質問がたくさん飛んできますし、そこをきっかけにして新しい会話も生まれてきます」
聴くべきところは真剣に、そして実習の時間には活発に活動していく、緩急をつけた授業展開に生徒たちはグッと引き込まれて、とても楽しそうです。
なお中1、中2は、友人関係や生活についても学ぶ大切な時期。実験はグループで取り組むため、準備から片付けに至るまで共同作業で行います。そこには、責任を持って一人ひとりが行動する生活指導の場としての役割もあります。時には友人同士で教え合うこともあり、人に教える、伝えることで理解や知識の定着にもつながっています。
丁寧なフィードバックで応えるから
生徒たちの成長過程が見えてくる
生徒たちは授業の「予習」「実験・観察」「まとめ・考察」のサイクルをノートの見開きに集約し、「実験ノート」として自分だけの一冊を作り上げます。平山先生は毎回レポートとして提出されたこのノートを丁寧に採点し、一人ひとりにコメントを付けてフィードバックを行っています。
「楽しかった、でおしまいにするのではなく、その体験や自分で見たものをきちんとアウトプットして、自分自身の言葉で表現してもらいます。
最初は慣れない生徒もいるので、しっかりとしたサポートは毎年の課題です。はじめのうちは教科書の内容をそのまま写してもまったく問題ないのです」
回を重ねていくことで生徒たちはコツを掴んでいき、ぐんぐんと書けるようになっていくのだそう。
「中1の最後のほうになると、いろいろなことを書き込んでくるようになります。不思議だなと思ったことを調べたり、ここがポイントだという部分をうまくまとめたり、自分なりに工夫して見せ方が上手になっていきます。最終的に点数に直して見たとき、学期をまたぐにつれて、どんどん加点されていき、得点が高くなっていくんです。
ノートのまとめ方から、こんなことを考えているのかという思考の筋道が見えてくることからも、生徒たちの大きな成長を感じます」
平山先生が大切にしてほしいと考えているのが、実験・観察を通じて得た洞察を、自分の中で一定の結論として導くことです。
「自分なりの論理を持ってほしいのです。それは、教科書通りだったという結論でも、そうでなくても構いません。要は、その教科書に書かれていることはノートや黒板の中の話でなく、より身近にあり、自分の目の前に広がっているものだということを意識してもらえるとうれしいのです」
なお、入学前の春休みには身近にある草花で標本を作る課題を課している平山先生。初回と第2回目の授業では、その草花を言葉だけで伝えて友達に描いてもらうという取り組みに挑戦しています。
「説明する力を育みたいと考えています。まずは現物を見ないで、言葉のみの特徴だけでイラストに再現するので、元とまったく違うものになることもあります。なぜ伝わっていなかったのか、どうしたら伝えられるのかを考察します」
その次には、言葉を一切使わずにスケッチだけで表現するという課題に挑みます。
「しかし、やはり言葉だけでも、絵だけでも伝えきれない、それだけでは不完全なのだということに気づくのです。スケッチの技法もしっかりと教えていきますが、記録は言葉と図の両方をきちんと使っていこうという話につなげています。
その上で、表現の手法にはさまざまなものがあることを伝えています。例えば数値を使う場合のグラフや図の書き方について、自身の考える結論に持っていきたい際に集めてきた数字をどう表現すればベストなのかを考えます。数値は平均値を取るのか、中央値で考えるのか、どんな表現をするのかという手段を理科の観察や実験を通してひとつずつ教えています」
さらに平山先生をはじめとする、都市大等々力の先生方が大切にしているのが、多角的な視点を持つことです。
「学齢が上がってくるにつれ、ひとつの事象は決してひとつの解釈だけではないということはやはり教えたいのです」
平山先生がこう話す通り、同校ではさまざまな立ち位置から物事を捉えること、そして自分自身の頭で考え、視野の広さを育むことを重視しています。
「中3は、『平和と命の旅』で水俣病のことを学びます。それに関連して社会科の先生は社会学としてのお話を、僕は生態学を通じた生物濃縮などの生態系の循環といった話をしたことがあります。これはひとつの問題を別の視点で考えてみるという授業の一例です」
中3では「平和と命の旅(九州修学旅行)」に伴う探究学習を事前・事後に行っており、さまざまな角度や立場から学び考えています。議論とまとめを繰り返す中で、自分たちの生活とのつながりを通して理解を深めていきます。
都市大等々力のその他の学びや
「SSTプログラム」の今後の展開とは
同校では「SSTプログラム」以外にも、中高の全学年を対象に希望制で年2~3回ほど、5~6時間かけた実験や調査を行う「理科体験プログラム(フィールドワーク)」を実施しています。ウニの胚発生観察のほか、多摩川での化石発掘、生田緑地での地層観察、博物館研修などを開催。博物館研修では見学だけにとどまらず、博物館の展示品を用いて、自分の知識で解説する機会も設けられています。
また付属校ならではのメリットを生かし、東京都市大学の研究者との交流も図られています。最先端科学や医療、設計に関わる講座など、大学教授などが高校では扱わないテーマでおよそ20ほどもの講義を行い、大学への興味・関心を促していくだけでなく、文理選択や将来の進路選択に役立てています。
これまで12年間に渡り実施してきたこの「SSTプログラム」ですが、ブラッシュアップしつつ、新しいことにも少しずつ挑戦しています。
「今年、一部のクラスではありますが、実験的に取り組んでみたことに生成AIの活用があります。例えば今までは人力で計算していた部分をAIに解析してもらって、自分自身で出した結論とAIが出した結論は相違性があるのか、それとも一緒なのか。ファクトチェックも含めて、どんなふうに扱っていけばいいのかを授業の中で指し示していけたら、おもしろいのではと考えています」
生徒たちが大人になる頃には生成AIは使えて当たり前になっているだろうからこそ、「いずれは授業の中で生成AIをうまく取り込んで、使い方を学ぶ方向に持っていけたら」と平山先生は話します。
その一方で、自身のお子さんが読んでいる漫画ではバーチャル世界をテーマにしたものが多くなっているように感じていると話す平山先生。
「生徒たちにとっても、もしかしたらバーチャルな世界のほうが身近なのかもしれません。だからこそ逆に、この実体験での学びは生きてくるのではないか、実際の世界を見て考えていくことがいかに大事であるかと思うのです」
最後に、平山先生に生徒たちに最も伝えたいことは?と尋ねると、「理科って楽しいんだよということです」と即答で返ってきました。
「もちろん、知識・技術を会得することや大学受験で通用する力を養うということは前提としてありますが、学問のおもしろさをいかに解くかというところは、教員の命題のひとつです。知識の構築や考えることの楽しさを知ってもらえたらという思いでずっと授業をつくっています」
学問の奥深さを実感できるのが、都市大等々力の授業の大きな魅力です。こうした学びの楽しさを知っていると、自分自身の目標に向かうときの判断材料や強みにもなるでしょう。これらの力を身につけられる同校の学びに触れに、ぜひ学校へ足をお運びください。
