学校特集
関東学院六浦中学校・高等学校2026
掲載日:2026年5月22日(金)
「人になれ 奉仕せよ」を校訓に掲げる関東学院六浦。キリスト教精神を基軸に据え、愛の心を持った地球市民を育てる教育を展開しています。2014年から12年間にわたって校長を務めた黒畑勝男先生は、当時の社会情勢への危機感を募らせ、次代を見据えた革新的なグローバル教育を渾身の思いで推進してきました。「選択制グローバル研修」「留学」「海外大学進学」などに象徴される、生徒と保護者の方の意識改革を図るとも言えるそのメッセージと教育実践は、黒畑先生の任期満了後も引き継がれ、進展していきます。この4月に同校では初の女性校長に就任した、伊藤多香子先生にお話を伺いました。
12年の時を経て、前校長から現校長へとバトンが繋がれた
■新校長のもと、関東学院六浦に新しい風が吹く
伊藤新校長は、全国の数々のキリスト教学校で教員経験を重ねた方です。北海道の酪農学園とわの森三愛では、偶然にも前校長の黒畑先生と同じ時期に在任していました。黒畑先生が英語科、伊藤校長は聖書科の教員として。その後、伊藤校長が宗教主任として関東学院六浦に転任した1年後、黒畑先生が同校の新校長に着任したのです。それが12年前のことです。
伊藤校長:「驚きました(笑)。それ以降、黒畑先生がさまざまな改革を打ち出すたびに、管理職としての私の立ち位置は組織作りのベースになる部分を固めることだと思い、教員の間に入ってそれぞれの意見を聞き、繋げていく役割を担ってきました。黒畑先生が目指す改革を、どうすれば全教員で共有できるか。それを、どうすれば具体的に生徒たちに還元できるかと。ですから、12年の間、黒畑先生が花火を打ち上げる役とすれば、私は花火の買い出しに行ったり、打ち上げる場所を確保したりと、目標完遂のためのサポート役を務めてきました。黒畑先生は、いろいろな種類や方法をご存知なだけでなく、柔軟かつ斬新な発想で新しいものを生み出されます。生徒よりも私のほうが改革されているようでした」
その間、若手の先生方もどんどん育ち、学校改革に力強く参画するようになったと言います。「自分たちの技術をもっとアップして、黒畑校長が打ち上げた花火を来年も上げたい」と、さまざまな提案をするようになったのだそうです。
伊藤校長:「一番顕著だったのはコロナ禍の時でした。オンライン授業を行う直前に、若手の教員3名がやってきて『うちの学校はICT環境は整っているけれど、このままの形では厳しい』と、別案を示してきたのです。そこで、その教員たちと校長室に行き、委員会を立ち上げて、それまでICTをうまく活用できていなかった教員も巻き込む形でスムーズにオンライン授業に移行する体制を作ることができました。その時に『黒畑校長の言っていることを具現化したい』という思いを持つ若手が育っていて、それが全教員にも伝わっているのだなと実感しました。このような体制がだんだんと整ってきていますので、私が校長になってさらに積み上げていくことはあっても、組織として大きく変わることはないと思います」
そして、伊藤校長は冗談混じりにこうも語ります。「言い方が難しいのですが、黒畑先生はマスコットキャラクターのような愛らしさのある方です。でも、私は礼拝の時などに生徒たちが静かにできないと強く叱るので、怖い先生と思われています。ある時、入学したばかりの中1の生徒が廊下を歩いていて私の姿を見つけた途端、方向転換をしたんですよ。そこが、黒畑校長と私の違う点かもしれません(笑)」と。
■次代に活きる、関東学院六浦の「グローバル教育」とは?
今、世界は未曾有の規模と速度で変化し続け、グローバリゼーションが当たり前となっていますが、このような状況のなか、同校は「次代を生きる」「次代に活きる」力を身につけさせるための教育を実践しています。
例えば、中学で展開されている「地球市民講座」や、内容と言語の統合型学習「CLIL」による英語の授業、日本語の4技能を磨く「言語力活用講座」などです。これらを、学力と人間力を涵養するための重要な基盤と位置づけているのです。
伊藤校長:「これらの学びは自分を掘り下げる一歩になり、生徒たちは確実に力をつけていますね。例えば、言いたいことを言うだけの文章から、言いたいことが正しく人に伝わる文章を書けるまでに変化していきます。ただ、時の流れに応じて新しいやり方を取り入れることも必要ですので、今後、プログラムの内容が変化していくことはあると思います」
また5年前には、高校に同校の教育の象徴とも言える「GLEクラス」を設置しました。GLEとは"Global Learning through English"の略で、「高いコミュニケーション能力を有し、他者と共同し、主体的に創造する力を持つ人」を育てることを目指すクラスです。主に「高い英語力」「日本語で書く力」「探究力」の3つの力の育成に重点を置くこのクラスのビジョンは、「自分軸を確立し、グローバル社会で未来を切り拓く」です。
ここで、グローバル教育のポイントについて少し詳しくご紹介しておきましょう。
①選択制グローバル研修(中1〜高3)
同校には、いわゆる修学旅行はありません。あるのは「選択制グローバル研修」。異学年でグループを組んでフィールドワークを行うなど、自ら学びを深めていくものです。なるべく早い時期に国内外のさまざまな文化に触れ、さまざまな背景を持つ人々と交流することで、世界の多様性を知ることが大きな目的です。中学3年間で1回以上、高校3年間で1回以上の参加が必須となっており、そのプログラムは国内外合わせて約20種にも及びます。その意味について、伊藤校長は次のように語ります。
伊藤校長:「例えば、首都圏のコンビニエンスストアで働く方々を見れば複数言語を話せる方が多いと感じます。すでに日本の中でもグローバル化は加速度的に進行しているのに、国外を見ることがグローバルだというひと昔前の感覚がまだ残っていたり、日本の人口が減少し続ける中で、英語が話せないというだけで海外の方に引け目を感じたりするのであれば、何のための私学でしょうか。このような話は説明会でもさせていただいていますが、『たくさんあるチャンスを具体的にものにできる学校』と『チャンスはいっぱいある学校』があるとすれば、本校は前者の姿勢を持つ学校でありたいと思っています」
②短期・1年留学(中3〜)
また、同校では在校中に短期、または1年留学も推奨しています。GLEクラスを設置して以来、留学や海外大学進学を視野に入れる生徒が一定数いるなか、実際に留学する生徒も年を追うごとに増加しています。
③海外大学進学
同校は、生徒たちが大学進学を「国内と海外を並列して」考えられるように、進路の選択肢を海外に広げる環境作りに尽力してきました。現状では1学年の5%程度が海外大学へ進学しています。以下に、海外大学への主な道筋を挙げておきましょう。
■ハワイカピオラニ・コミュニティカレッジ(KCC)との提携
■USデュアルディプロマプログラム
■UPAS(海外大学進学協定校制度)
■マレーシアの3大学への指定校推薦
■New!アメリカ・サウスイーストミズーリ州立大学への指定校推薦(現高3〜)
■New!NCN Pathways(米国大学奨学金受給生指定校推薦制度)
■New!モナシュ大学マレーシア校との教育連携
■New!マレーシア・UCSI大学への指定校推薦制度
※海外大学進学の詳細はコチラ→https://global.kgm.ed.jp/system/overseas.html
■「留学生と共に過ごす」という環境
同校にはさまざまな国から来た留学生や帰国生がいるため、「日本の文化の中で自己実現をしていく自分が、他の文化からどのように見えるか」と、日常的に意識する環境にあります。留学生と共に授業を受けるなかで、当然お互いの国にとって難しい問題が出てくることもありますが、配慮をすることはあるものの、臆して問題の核心に蓋をすることはないと言います。
伊藤校長:「難しい点もありますが、さまざまな問題を歴史的事実としてしっかりと受け止める力がないと、本当の意味でのグローバルな視点は持てません。生徒たちに価値観の無理強いはしませんが、もっと自由に話し合えるようにしたいと思っています。留学生を受け入れて調整が必要なことも多々ありましたが、今は国際センターを中心に、これまで培ってきたものをより活かせるようになりました。また、日本のアニメ文化が世界中で知られていることもあり、留学生たちの日本語の習得は速いですね。東ヨーロッパから来た生徒たちは本国で大人として扱われるためか、個人の責任を重く考える傾向がありますし、アジアから来た生徒たちはトップを目指す意識がとても高いなど、まさに多様性に満ちています」
そんな、留学生や帰国生からさまざまな影響を受けて留学する生徒も多いのですが、昨今の経済事情からすれば留学はそれほど簡単なことではありません。しかし、伊藤校長は現況をこう語ります。
伊藤校長:「保護者の方の負担は大きいと思うのですが、本校では留学を応援するご家庭が多いですね。本校のシステムがある程度整っていることと、日本の大学に進学する際にもその経歴が総合型選抜で力を発揮するからかもしれません。だからこそ、その成果を表出させるための深い学力や語彙力をつけることには、さらに力を入れていきたいと思っています」
■すべての学びの土台となる「探究心」の育成が、進路指導にも繋がっている
同校は、「探究」と声高に言うことはありません。なぜなら、グローバル・プログラムでも明らかなように、学びのすべてが探究的に実践されているからです。
伊藤校長:「中学時代はのびのび過ごしながらもたくさんの刺激を受け、高校ではタフな精神と欲張りな探究心を以って自分が望む進路を明確にし、『だから、こういうふうに勉強しなくては』と意識できるような進路指導を心がけています。以前、高校から入学したGLEクラスの生徒が説明会で本校のことを『探究を自由にさせてくれる学校』と言いました。何をやっても探究になっていくと。なぜそう言ったのかと聞いてみたところ、『自分が在籍していた公立中学校では探究のテーマが決められ、みんな同じものに取り組んでいた。でも、ここでは自由にできるし、それが自分の進路にも繋がっている』と」
自分が本当に望む道筋は、主体的な学びを継続してこそ見つけられるものです。進路指導とは、大学に合格させることだけではありません。その真意は、多様なプログラムの中から生徒が自分で選び取って学び進めるなかで、「未来への対応力」を身につけさせることにあるのでしょう。 伊藤校長は、ある卒業生の話もしてくれました。
伊藤校長:「GLEクラスの1期生にパイロットになりたいという生徒がいました。その生徒は自分の思いを確かめるために、鹿児島県の知覧(現・南九州市)に行ったと言うのです。第二次世界大戦末期に特攻隊が飛び立った場所であり、その記録が今も残っているところです。そこに行って、特攻隊の青年たちの死を前にした思いに心を寄せながら、『飛ぶって何だろう』と考え、『死ぬために飛ぶのではない。自分は安全に飛ぶことを徹底するパイロットになりたい』と決意を新たにしたのだそうです」
この卒業生の話は、「キリスト教精神」と「探究的学び」、「グローバル教育」を主軸とする同校の教育風景を端的に表すエピソードのように思えます。そして、近年GMARCHや海外大学などへの実績が伸び、進路に幅が出てきたことも、これらの教育の柱が着実に連環してきている証ではないでしょうか。
キリスト教精神を根幹に、すべての教育活動を展開
■「キリスト教精神が日常に息づいている」という環境
宗教(聖書科)を担ってきた伊藤校長は日本で教育を受けてきた方ですが、帰国生の多い都内の私立中高一貫校の出身です。その環境の中で世界の多様性を知り、「世界は広い。そこに飛び込める環境がある中で、自分は何を頼りに生きていけばいいのか」と中2の頃から考えていたそうです。
そして、「言葉の壁はあまり大きなものではない。むしろ、その人が何を大切にしているのかがすごく問われるのだ」と実感したと言います。そんな時に「2000年続いている聖書は変わらない」という言葉を聞き、すがる思いで聖書を開いたことがキリスト教との関わりの始まりだったのだとか。
伊藤校長:「『聖書』の授業では、聖書に記されていることが核になります。ですから『他者と一緒に生きていけと言っているけれど、みんなはどう思う?』と問いかけます。キリスト教的価値観を押しつけることはありませんし、意見をみんなで共有することが大前提ではありますが、批判する時には自分なりの答えを持たなくてはいけません」
この4月からも授業を受け持つ伊藤校長は、昨年度担当した中2の授業の様子を教えてくれました。
伊藤校長:「イエス・キリストは偉大な人なのだという教え方はしません。例えば『イエス・キリストはこんな目に遭って......』と、その物語を話すと、生徒たちからは『なんて大変なことになっていたんだ!』と、物語の中に飛び込んだ者としての言葉が返ってきます。感性が鋭いといいますか、その状況を想像し、考えようとするのです。キリスト教の学びは総合探究を行う過程と似ているところがあるのですが、生徒たちはその力も十分に秘めていると感じます」
キリスト教の人間観や世界観は、探究的学びの根本にも繋がるのです。
関東学院全体の校訓は「人になれ 奉仕せよ」です。そして、創立者である坂田佑(たすく)はもう一つ、「人道上のチャンピオンたれ」という言葉も残しています。「勉強ができないこともある。社会的にうまくいかないこともある。いろいろ失敗はあるが、それはいいのだ。そのようなチャンピオンではなく、人道上のチャンピオンになれ」と。ちなみに、「チャンピオン」という言葉には「大切なことを他者の代わりに担う人」という意味があります。まさに、キリスト教精神そのものです。
■「しなやかさ」に支えられた「人間力」を育てる
伊藤校長:「生徒たちがこれからの時代を生きるために必要なのは、何があっても『しなやか』に対応する力だと思います。雪にしなる枝のように、決して折れることなく、春になれば美しい花を咲かせる。そういうイメージです。実際、本校の生徒たちはそんなふうに育ってきていると思います。伸び悩む時期もありますが、最後には花を咲かせますし、その花が『白だと思っていたのに、え、黄色だったの!』ということも(笑)」
私たちはみな、一般社会の中の一市民。求められているのは、「他者と共に生きる人」になることです。そして、その力をつけるための教育プログラムを担うのが自分たちの役割だと伊藤校長は語ります。
伊藤校長:「本校は『他者とともに生きる人』を育てることを最も大切に考え実践してきましたし、そうすることで『人になれ 奉仕せよ』に到達するはずだと思っています」
最後に、伊藤校長は自身の高校時代のエピソードを話してくれました。
校長は立教大学のキリスト教学科を卒業後、聖書科の教員として数多くの学校で教鞭を執ってきましたが、実は高3まで理系を志望していたのだそうです。
伊藤校長:「数Ⅲまで学び、とくに二次関数が大好きでした(笑)。数学がおもしろくて、予備校にも通って薬学部を目指していたのですが、中学から聖書を読んでいたこともあって高2の時に洗礼を受けました。そして、一生涯やり続けたいものは何なのかと改めて考え、高3で文系に方向転換をしたのです。私が経験したように、好きな科目がそのまま進路に繋がるとは限りません。生徒たちには『自分はどう生きたいか』をよく考えてほしいと言うのですが、それを続けていけば『人になれ 奉仕せよ』とともに、先ほど申した『人道上のチャンピオンたれ』に繋がっていくと思います」
キリスト教精神に基づいた人間教育の下、学びのフィールドを国内外に広く持ち、そこで自分の真の役割を見出して、社会貢献・世界貢献への志を醸成させる。そして、「平和を創出する人」になる。それが同校の教育哲学であり、校訓「人になれ 奉仕せよ」の意味するところです。
これまで黒畑先生と共に積み上げてきた改革の上に、伊藤校長が新たに描く教育風景に引き続きご注目ください。
