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学校特集

自修館中等教育学校2026

探究は生き方そのもの。だからこそ、探究活動では「対話」が重要
探究先進校として、独自プログラム「C-AIR」を推進。探究の質を向上させる「対話のルール」とは?

掲載日:2026年8月27日(木)

1999年に創立された自修館中等教育学校。「自学・自修・実践」を教育目標に掲げ、「探究」「グローバルマインド」「EQ(こころの知性)」という3つを学びの柱としてきました。創立当初から全国に先駆けて取り組んできた探究活動を、2020年度に独自の探究プログラム「C-AIR(シー・エア)」に改編し、「課題を見つけ、解決するために考え抜く力、その成果を発揮する力」を育み続けています。同校の探究教育をリードしてきた探究力開発センター・研究開発室長である海老名豊昭先生に、「探究の『質』を向上させる対話の重要性」についてお話を伺いました。

「C-AIR」が目指す生徒像は、「エージェンシーを発揮する人」

「対話」の質を向上させることが、「探究」の質を上げることに繋がる

 創立当初から教育の中核に「探究」を据え、実績を積み上げてきた同校。2020年度からは新しい探究プログラム「C-AIR」にバージョンアップし、「変化の激しい社会」に対応しながら課題を解決し、人々との「協調」を重んじる生徒の育成を目指しています。
「C-AIR」とは、"Change and Collaboration-oriented Agency through Inquiry and Research"の頭文字で、「変化と協調に向け、探究を通じて、社会を動かす力」のこと。「Agency(エージェンシー)」とは、近年注目されている概念ですが、文部科学省によれば、「自ら考え、主体的に行動して、責任を持って社会変革をしていく力」とされています。
「C-AIR」が育成を目指す「エージェンシーを発揮する生徒」とは、「社会のリアルな課題に主体的に関わろうとする生徒」のことなのです。

■探究プログラム「C-AIR」の流れ

1・2年生(経験型) 社会の見方を知るためのグループ学習
 地元である伊勢原市の行政や研究機関、大学(産業能率大学・神奈川工科大学・横浜薬科大学・東京農業大学)と連携し、グループ活動を通して情報収集、ポスターやスライドでプレゼンテーションを行う。探究の基礎スキルを習得するとともに、社会に対する自分なりの視点を養う。
3・4年生(学術ゼミ型) 社会とつながるための学術ゼミ
 学術分野ごとに12のゼミに分かれ、本格的な課題研究に挑戦する。積極的に外部機関や企業への取材も行いながら個人探究を深め、8000〜1万字の論文にまとめる。各ゼミの受講生は10名程度で、2名の先生が担当。
5年生(自律型) 社会に働きかけるための実践研究
 4年次までの経験とスキルを総動員し、自律的な探究活動を実施。探究スタイル(グループ・個人)やテーマを自由に選択できる。
6年生(選択型) 社会の今後をつくるための挑戦研究
 選択制授業。総合選抜型入試や学校推薦型入試も視野に入れながら、独自の着想に基づく先進的・挑戦的な取り組みを目指す。


 このように、同校は発達段階に応じた課題に挑戦することで、「課題を見つけ、解決するために考え抜く力、その成果を発揮する力」を育みながら、この社会では何が起きていて、この先どうなるのか、自分には何ができるのかと、生徒が当事者意識を持って社会課題に向き合うように導いてきました。
 27年間にわたって積み上げてきた探究活動の実績を踏まえ、海老名先生は「探究の『質』を上げるフェーズに入ってきた」と言います。そのための重要な要素は、「対話の質を向上させること」だと。

自修館_探究力開発センター・研究開発室長の海老名豊昭先生
探究力開発センター・研究開発室長の海老名豊昭先生

海老名先生:「探究では生徒一人ひとりの興味関心はもちろん大事ですが、その前に社会を築く一員として、あらゆる活動で他者と関わることが前提にあります。ですから、他者との関係づくりでは、何より対話の質を向上させることが重要だと思っています」

 1・2年次の2年間は探究の作法を学ぶ、いわば助走期間。3年生からはゼミに所属し、先生方の助言・指導の下で本格的に探究に取り組みますが、外部機関や企業への取材など、外の世界と協働しながら学びを深める機会も増えていきます。そこで重要になるのは「対話的な関係性」であり、「パートナーとの関係性の築き方」です。

海老名先生:「例えば、クラスメートと良い関係を築くことができなければ、外部の方と前向きな関係をつくることも難しいでしょう。それは、生徒と教員の関係でも同様です。そのためには何をするべきか、そういった話題を教員間でも増やし、関係づくりを強化するようにしています」

「対話のルール」を明文化する

「対話」を通して新たな視点を得る代表例が、公開行事「探究発表会」です。全学年全クラスの生徒が一堂に会する探究発表会は全国的にも稀なケースですが、「本校はこれを当たり前のこととして実施してきました」と海老名先生。そして、「対話」の重要性について次のように話します。

自修館_「探究発表会」でプレゼンをする生徒
「探究発表会」でプレゼンをする生徒

海老名先生:「そもそも、人はなぜ『対話』をするのかといえば、相手の意見を聞いて自分の考えとの違いや、何か新しい気づきがあるかもしれないという前提があるからです。最初から自分の考えを変える気持ちがなければ、お互い平行線で終わってしまいますから」

 探究発表会は、単なる成果発表の場ではありません。「発表者(話し手)」と「見学者(聞き手)」が、発表内容について質問したり答えたり、対話を深める場でもあるのです。その「やりとり(対話)」を通じて、お互いに「自分にはなかった視点」を得ることができ、ものの見方や考え方がそれまで以上に広がっていくのです。探究発表会は、「発表者(話し手)」だけでなく「見学者(聞き手)」も主役。お互いの意見を「聞き合う」姿勢が最も重要なのです。
 そこで、「対話」を進めるコツとして、次のような「対話のルール」を明文化しました。

■探究活動における「対話のルール」

・沈黙を歓迎する            ・相手の話を(繰り返せるよう)よく聞く
・否定も断定もしない          ・立場や年齢に関わらない
・「顔色うかがい」をしない        ・「わからない」と言える雰囲気を大切にする
・考えの変容を前提とする        ・「違い」による「気づき」を楽しむ

東京学芸大学・OECD共催ワークショップより改編


自修館_「探究発表会」は各教室でも実施される
「探究発表会」は各教室でも実施される

 大人は経験によってこうしたルールを身につけていますが、10代の生徒たちは明文化されることによって、意識的な行動に繋げていけるようになるのです。これは調べ学習をする際も、ゼミで先生方と話す際にも、そして外部機関と接触する際にも活きてくるルールといえるでしょう。

海老名先生:「探究は人生、生き方そのものだと思っています。そこには、人間形成に重要な要素が詰まっています。教員との関係、クラスメートとの関係づくり、そうした人と人との関係をどのように築いていくか。対話のスキルはもちろんのこと、他者へのリスペクトも含めて学ぶことが探究の根本だと思っています」

生徒の意欲が開花する「探究発表会」。今年から複数回発表にバージョンアップ

 同校では、1年間の集大成として「探究発表会」を実施していますが、発表会終了後には生徒アンケートを実施しています。昨年は「自分の発表をより良いものにする機会になりましたか?」という問いに、80%以上が肯定的に回答しました。一方で、「1回きりの発表ではもったいないので、複数回の発表にしてほしい」など、さまざまな意見があったそうです。

自修館_ICTの先駆校でもある同校。「個別最適化学習」を実現するためにiPadを貸与し、多様なAIアプリを活用しながら成長へのプロセスを具体化している
ICTの先駆校でもある同校。「個別最適化学習」を実現するためにiPadを貸与し、多様なAIアプリを活用しながら成長へのプロセスを具体化している

海老名先生:「全員が発表するので、どうしても時間的な制約があります。混雑しすぎてもいけませんし、翌年からゼミ探究が始まる2年生には3年生の発表を見てほしい、5年生には4年生の発表を見てアドバイスをしてほしいといった教員側の思惑もあり、昨年は見学時間のローテーションを組みました」

 アンケート内容を検討した結果、今年の探究発表会では初めて生徒の事前申告で複数回発表を可能にしました。また、昨年から全員分のポスターを大判サイズでプリントアウトして貼り出すなど、実施方法もバージョンアップしながら、探究発表会の質も向上させています。
 同校の教育の真髄と、生徒のあふれる思いが詰め込まれた「探究発表会」。その中間発表会が9月12日に開催されますので、ぜひお出かけください。なお、午前と午後の部の間に学校説明会も実施されます。

■2026年度/探究活動の中間発表会+学校説明会「探究TRIP DAY」(予約不要)

9月12日(土) 午前の部/10:00〜12:00
         1・2年生:教室での発表
         3・4年生:体育館棟での発表
         午後の部/13:00〜15:05
         3・4年生:体育館棟での発表


「対話の質」を上げるツールとして、EdTech教材「インスパイア・ハイ」を導入

自修館_定期考査を廃止した同校。日々の積み重ねが確かな力となり、主体的に学び続ける姿勢が育っている
定期考査を廃止した同校。日々の積み重ねが確かな力となり、主体的に学び続ける姿勢が育っている

「対話の質」を上げる新しいツールとして、今年から世界とつながる探究的な学びを手軽に教室で実践できる、EdTech教材「インスパイ・ハイ(Inspire High)」を導入しました。これは、世界中で活躍する多様な分野の専門家やクリエイターの生き方・価値観に触れる、探究学習・キャリア教育用のデジタル・プログラムで、科学者や国連職員、宇宙飛行士、写真家など、さまざまな職業に就く方々がガイド役となって自らの体験を語るもの。例えば、オードリー・タン(台湾の初代デジタル大臣)や谷川俊太郎(詩人)、マサイ族長老など、第一線の方々と画面を通して出会えるのです。

海老名先生:「動画の中で、ガイドと呼ばれる方々が15分ぐらいご自分の経験について語ってくださるのですが、『国際社会にどう関わっていくか』『地方でどう生きるか』など、さまざまな『正解のない問い』が投げかけられます。そうした一つひとつのテーマをみんなで共有して、自分なりの考えを持って討論するための材料として活用しています」

自修館_グローバルプログラムの目標は、英語力だけではなく「グローバルマインド」を育てること。もちろん、それは探究する姿勢にも活きてくる
グローバルプログラムの目標は、英語力だけではなく「グローバルマインド」を育てること。もちろん、それは探究する姿勢にも活きてくる

「インスパイア・ハイ」は探究の授業だけでなく、道徳の授業である「SS(セルフサイエンス)」やグローバル教育の授業でも活用しています。前期課程では「世界に目を向ける」きっかけとなり、後期課程では「主体的に社会の課題と関わる」土台となります。

海老名先生:「探究といえば、調査して分析して解決策を提示して、という取り組みになりがちです。でも、本校が大切にする探究的なものの考え方、多様な価値観や文化を理解して受け入れるグローバルマインド、高いコミュニケーション能力を養うEQ教育と、すべてが一人の生徒の中に融合していくことが理想であり、そのためにも探究の質を上げていきたいと考えています」

他者に対するリスペクトがあってこそ、探究は意味を持つ

他人の成果物に対するリスペクトを忘れないこと

 探究の質を上げるための課題として、海老名先生が「対話」の次に挙げたのが、倫理的な課題です。
 同校では、ChatGPTをベースとした「スタディポケット」を採用してAIを積極的に活用していますが、インターネット検索に慣れてしまうと、知らず知らずのうちに著作権を侵害するケースも出てきます。そこで、図書館の利用や文献調査を促したり、参考文献の書き方を徹底するなど、丁寧に指導しています。

自修館_お昼はお弁当持参が基本だが、食堂やカフェテリアを利用することもできる
お昼はお弁当持参が基本だが、食堂やカフェテリアを利用することもできる

海老名先生:「AIはデータリサーチの手段として非常に有効なツールですが、写真1枚にしても、他人が生み出したものに対するリスペクトを忘れてはいけません。探究に際しては人の権利を侵害したり、嫌な思いをさせたりすることがないようにしなければならないと思っています。自分の足で歩き回って一次情報を得るフィールドワークや、自分の目で確認する文献調査を重視し、相手へのリスペクトを持って情報を精査する重要性を伝えていきたい。そして、その意味を心から理解できるような取り組みにしていきたいと思っています」

 生徒自ら大学や企業、自治体、あるいは海外の専門家へアポイントのメールを送り、インタビューや共同プロジェクトを企画・実行することも推奨していますが、そこで忘れてはならないのが「探究の作法」です。

海老名先生:「生徒が本当に興味を持って、真剣に下調べをして、『知りたい!』という熱意をもってインタビューを申し込めば、取材先の方々は生徒の気持ちを真摯に受け止め、こちらの想像以上の対応をしてくださいます。やらされているのか、本当に興味を持っているのか、それによって受け止める側の対応も違ってきます」

 また、アンケートも一つの取材方法ですが、質の向上という観点から、単にアンケートをとることが目的にならないように、「アンケートの作り方も問い直したい」と、海老名先生。

海老名先生:「現在は生徒や保護者を対象にしたものが多いのですが、今後は外部へのアンケートも増えていくと思います。なぜアンケートが必要なのか、その質問が適切かどうか、人にものを聞く時に配慮すべきことなど、相手を尊重する姿勢をきちんと学べるように、改めて見直していきたいと思っています」

 他人の成果物に対するリスペクトは、「他者にものを尋ねる時の気配りや心配りにも表れる」と海老名先生は言います。探究とは「調べ物をしてまとめて発表」という学びの形態ではなく、「人づくり」に深く関わる重要な命題なのです。
 探究の質を向上させていくために、何が必要で、何が重要なのか。同校は、「まさに正解のない問い」に挑戦しているのです。

自修館_コミュニケーションを大切にする同校らしく、各フロアの廊下にはテーブルと椅子が設置されている
コミュニケーションを大切にする同校らしく、各フロアの廊下にはテーブルと椅子が設置されている

海老名先生:「何よりも目の前にいる生徒たちが取り組んでいることに対して、教員がどう関わり、どう引き上げていくかが問われています。そこはまだ手探りですが、AIを使って何でもできてしまう時代だからこそ、生徒をどのように成長させることができるかと言えば、対話がより大事になってくると思います。『あなたの思いはどこにあるの?』という人と人とのやりとりの重要性が、改めて問い直されていくのではないかと。特に3年生以降は、ゼミ活動などで日常的に教員と生徒が会話できる環境にありますので、そこでの対話を通して、探究することの意味を体感してほしいと思います」

 最後に、先生方に問いかけたアンケート結果をご紹介しましょう。テーマは、「『エージェンシーを発揮する生徒』を育てるには、『どんな場面(探究・各教科・特別活動・道徳など)』で『どんな取り組み』をすることが必要だと考えますか?」というもの。
 先生方の回答からは、探究にかける同校の矜持と不断の決意が見えてくるようです。

■「エージェンシーを発揮する生徒を育てるためには?」
に対する先生方のアンケート回答(抜粋)

・生徒が「自分の意志で行動し、自身や周囲の人々、環境にプラスの変化をもたらした」経験を指摘し、自覚させることが必要。「自分が行動することで何かを変容させることができる」という意識が、エージェンシーを発揮するための根本にあると考える。
・(「問い」が見つからないと言う生徒に対して)その声に耳を傾け、「やらされている探究」にならないように指導していく必要がある。「問い」を立てさせるスキルを我々が身につけ、実践することが「エージェンシーを発揮する生徒」の育成につながるのではないか。
・探究の授業で行き詰まっている生徒に対して、つい「〜してみたらどう?」「〜のことを調べてみるといいよ」などの声掛けをしてしまうことがあったが、これでは誘導していることになり、対等な「対話」ができていないことになる。エージェンシーを発揮させるためには、我々教員の対話力や対応力を向上させなければいけないと思った。

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