学校特集
鷗友学園女子中学高等学校2026
掲載日:2026年3月10日(火)
難関女子校として知られる鷗友学園のカリキュラム・ポリシーは次の3つ。①キリスト教精神②全人教育・リベラルアーツ③グローバル教育。1935年の創立以来、実践される教育のすべては校訓である「慈愛(あい)と誠実(まこと)と創造」の精神を涵養することに集約されます。その礎のもと、時代に照らした教育改革を推進し続ける同校。ここではカリキュラム・ポリシーの3つ目「グローバル教育」について、国際部のグローバル教育コーディネーターに着任して2年目の松原直美先生にお話を伺いました。
今だからこそ、「グローバル教育」をアップデート!
■全人教育の一環として、「グローバル教育」改革に着手
「女性は良妻賢母であれ」と言われていた戦前の時代。この風潮に反して創立者の市川源三は生徒に「女性である前に一人の人間たれ」と伝え続けてきました。そして、「なんでも思ったことは言いなさい」と、今で言うアクティブ・ラーニングを実践。校訓の「慈愛(あい)と誠実(まこと)と創造」には、「相手を尊重し、共に成長する」「自らを見つめ、意欲を持って学ぶ」「自由な発想で、新しいものを生み出す」という意味が込められていますが、そこには全人教育への確固たる信念が窺えます。
学習面においては、例えば本一冊を丸ごと教材として意見を交換し合う「丸本」を実施する「国語」や、科目ごとに先生方手作りの実験書がある「理科」、創立当初から続く「園芸」、リトミックを取り入れたダンスが必修の「保健体育」など、知性と感性、そして精神性と身体性を培うため、まさに全方位で豊かな学びが展開されています。
また、生活面においてもその方針は貫かれます。例えば3日に一度席替えを行って多数のクラスメートと知り合う、「アサーショントレーニング」(中1・2)で相手に配慮しながら自分の意見を率直に表現することを学ぶなど、ペアワークやグループワークを多用しながらコミュニケーション力を培い、将来に活きる「多様性を実感する経験」を積み重ねていくのです。
伝統を継ぐ独自の学びは多岐にわたりますが、「タフで愛ある女性」を育てるという目的のため、近年はさらに学びの場を拡充しています。例えば大学や企業とコラボする校外プログラムなど「外と繋がる」学びです。
今回フォーカスするグローバル教育については、海外で学び活躍する選択肢を見据えた体制を強化するため、昨年度からグローバル教育コーディネーターとして松原先生を迎えました。これも「外と繋がる学び」の一つです。松原先生は、大学3年次にアメリカ留学を経験した後、海外各国の学校で教員経験を重ねてきた方です。
著書に『英国名門校の流儀』(新潮社/2019)、『世界のリーダーは歴史をどう学ぶか』(自由国民社/2023)などがあります。
松原先生:「私は幼い頃から海外で働こうと思っていたのですが、夫が商社マンだったので、駐在した先々で就職活動をしました。タイの公立中高一貫校やドバイの国立ザイド大学、イギリスの私立中高一貫校ハロウスクールなどで、選択科目の日本語や日本文化を教えていました」
■まずは、言語の「境界線」をなくすことが重要
同校はグローバル人材に必要な力として、
①自己理解
②他者理解
③能動性・創造性
④コミュニケーション力・英語力
⑤アサーション(相手を尊重しつつ、自分の意見や感情を率直に伝えるコミュニケーション手法)
の5つを掲げています。これらは日々の各授業やホームルーム活動、国際理解教育プログラムを通して育成しています。
国際理解教育プログラムでは、多様な渡航プログラムに加え、校内で取り組める国内プログラムも充実しています。通常の英語の授業と連携しながら、まずは英語力を身につけることの重要性を理解することからスタートし、その先にある外部試験の挑戦へと繋げていきます。松原先生が着任して以降、「はじめてのトフル」「はじめてのアイエルツ」(ともに中3〜高3)、「イングリッシュサロン」(全学年)などのプログラムを開設。段階的に挑戦できる環境を整え、生徒一人ひとりの可能性を広げています。
松原先生:「何よりも、国内と海外というバウンダリー(境界線)をなくしたいのです。バウンダリーという柵があると、その中でしか動けなくなってしまいますから。それを取り払うためには、やはり英語力は重要だと思います。本校は全体の約1割が帰国生ですが、ほとんどの生徒は中学に入ってから本格的に英語を学びます。ですから、『英語が嫌い』『外国人が苦手』といった意識だけは持たせないようにしたいと思っています。そして最終的には、英米の英語の実力測定試験であるTOEFL®やIELTSにしっかり対応できるような力を身につけられるよう生徒に伴走していきます」
■「TOEFL®」「IELTS」とは?
よく耳にするTOEFL®(Test of English as a Foreign Language)とはアメリカのNPOが主催する、英語圏の高等教育機関が非英語圏の入学希望者の英語運用力を判定するために行う実力測定試験のこと。また、IELTS(International English Language Testing System)は、ケンブリッジ大学英語検定機構など三者が共同で運営する英語検定の一つです。どちらも世界中で進学や就職に使えます。
鷗友学園では、国際部を中心に海外大学への進学支援も行っていますが、2025年11月にTOEFL®︎日本事務局のETS Japanがスタートさせたグローバル教育・海外留学を支援する「TOEFL iBT®︎Open Possibilities Program」を採択し、日本での第1号となるStage3推進校として活動しています。
ETS Japanによる説明会も開催され、留学に興味のある中2〜高2の生徒約100名が参加しました。先生方向けの説明会は英語で開かれ、英語科に限らず多くの先生方が参加したそうです。
松原先生:「TOEFL®はアメリカの大学で授業を受けられるレベルにあるかどうかを見る試験ですので、アメリカの大学の授業で使うテキストに準じるような問題が出ます。地学や物理、天文学があったりと理系の問題も多く、またギリシア・ローマの歴史や映画の変遷、ジャズの発展など、さまざまな学問を包括するような問題構成となっています。ですから、TOEFL®を受検するための勉強は、英語の勉強というより英語を使って他の教科の勉強をしていく感じです。TOEFL®の勉強をしているだけで、一般教養が身につくとも言っていいでしょう」
同校が推し進めようとしている英語教育は、単語や文法の理解を大切にしながらも、それを土台として自分の考えを英語で伝える力を育てていく点に特色があります。従来の枠組みにとどまらない、新しい視点を取り入れた取り組みと言えるでしょう。
松原先生:「前期の『はじめてのトフル』では、リスニングで出題されていたアリストテレスの『幸せとは何か』という哲学的な問題について話し合いました。『考えたこともない』という生徒もいましたが(笑)、その後『哲学っておもしろいね』と言ってくれて、とても嬉しかったですね。TOEFL®の試験問題は世界の歴史や文化、生活などについて考えるきっかけを作ってくれます」
この「はじめてのトフル」では、先生と生徒がハークネステーブル(楕円状のテーブル)を囲み、気負いのない雰囲気の中で意見を出し合いながら授業を進めるのだそうです。
■渡航プログラムも、レベル別に多種多様
各種プログラムについてご紹介する前に、同校の通常の英語学習についてご説明しておきましょう。
通常の授業はオールイングリッシュで行われ、中1から大量の英語を浴びます。また、L.L.ライブラリー(英語専用図書館/蔵書は約3万冊)を活用した多読にも力を入れています。英語の基礎を築く中1では10万語(文庫本約1.5冊の文字量)、英語への体力をつける中2では30万語を読むことが目標。そして、自分の考えや思いを英語で発信することを目標とする中3では100万語(文庫本15冊分)を読破することを目標としています。3年間の集大成として、英語によるオリジナル絵本も制作します。
松原先生は「国際プログラム」として、渡航型・校内を一覧表にまとめました。英語学習を進めるにあたっては、まずは「今、どのくらいの実力か」という自分の立ち位置を知ることが重要です。そこで、ヨーロッパで主流になっている外国語学習者の習得状況を示すガイドラインであるCEFR(ヨーロッパ言語参照枠)を指標として示し、その指標に対応する英検やTOEFL、IELTSの目安も併せて示しています。さらに、その下には各レベルに応じたプログラムが配置されており、自分の現在地と次の目標がひと目でわかる構成となっています。
松原先生:「例えば、現在、CEFRのA1(英検3級相当)の生徒であれば、それより少し高いレベルの『ニューヨークリーダーシップ研修』やイギリスの『チェルトナム・レディーズ・カレッジ研修』への参加を目標に掲げることができます。このように、具体的でわかりやすい目標を設定できる仕組みになっています。A2(英検準2級相当)でチェルトナムに参加した生徒が、その経験をきっかけに英語力をさらに伸ばし、より上位のプログラムへと挑戦を重ね、最終的には海外大学への進学を目標に掲げるまでに成長しています」
ちなみに、渡航型には7種、校内には6種ありますが、渡航型には外部のエージェントを通さない、同校独自のプログラムが3つあります。アメリカの名門高校チョート校でのチョート校サマープログラム、韓国の名門ハナ高校での国際シンポジウム、ハナ高校との交換留学 (すべて高1・2)です。
エージェントのプログラムを既製服とすれば、独自のプログラムはオーダーメイドの服。既製服にも良いものはたくさんあるものの、オーダーメイドでのプログラムであれば、鷗友の寸法に合った、生徒にフィットしたものになると松原先生。
松原先生:「渡航型プログラムの最難関は『チョート校サマープログラム』ですが、本校には『いつかはチョートへ』という雰囲気があります。同プログラムの参加者には『小学生の時に学校のパンフレットでチョート校の記事を読んで、入学したらチョート校に行くんだと決めていた』という生徒もいます。このプログラムに参加するためにはTOEFL iBT®を受検し、一定のスコアを取得することが条件となっています。ハードルは決して低くありませんが、昨年は9名が基準を満たしました。そのうちの6名が帰国生ではなく、日本で学んできた生徒です」
■「Choate Summer Program」に参加した生徒の感想(抜粋)
●このプログラムに参加して、英語を話すことでたくさんの人と関わることができると実感しました。チョートで出会う子はみんな英語が話せるので、国や人種が違っても、英語を使えばたくさんの友達ができるのだと気づき、これからの勉強も頑張ろうと思えました。また、授業が難しかったり、ホームシックを感じたりと大変なこともありましたが、生徒だけでの生活を通して、困ってもなんとかする自立した2週間を過ごせたと実感しています。帰国しても写真を見返すくらい、貴重な思い出になりました。(A・Mさん/17歳)
●2週間「社会正義」という漠然としたテーマとじっくり向き合うことができたのは、すごく貴重な体験でした。私のコースはボランティアがメインで、その中でも黒豆の缶を配っている時に"Thanks for being here."と笑顔で言ってくれたお爺さんを、帰る時に路上で見かけた時の衝撃は忘れられません。この2週間で「社会を良くしたい」という意識が芽生えました。この経験を原動力に、社会に役立てるよう勉強を頑張ります!(Y・Fさん/15歳)
●「自分の視野と可能性を広げられた2週間」。私は、チョート校での日々をこう表現します。授業が理解できなくても先生やクラスメートに質問したり、勇気を出して手を挙げて発言したり、自分から話しかけて友達をつくったり......。渡航前は不安でいっぱいでしたが、毎日一つひとつ「できるようになったこと」を積み重ねて、「私、意外といけるかも」と少しずつ自信がつきました。また、拙いながらも英語を使うことの楽しさに気づき、将来、海外で医療に携わりたいという新たな選択肢を得ることもできました。(H・Mさん/16歳)
松原先生:「日本で英語を学んできた生徒が帰国生に影響を受けることは多いですが、その逆もあります。『日本で学んできた人でもここまでできるのだから、自分たちは海外で学んだ経験をさらに活かせるのではないか』といった思いが帰国生に生まれることもあるようです。お互いに良い刺激を与え合いながら、切磋琢磨する関係が築かれていると感じています」
大事なのは生徒も先生も楽しむこと。それがすべての学びの大前提
■境界線をなくすことは、可能性を無限に広げること
松原先生:「最初にバウンダリー(境界線)をなくしたいと申しましたが、制限がないということは最も幸せなことだと考えています。イギリスのパブリックスクール(私立伝統校)で教えていた時に、合同学校説明会によく参加していたのですが、そこで教員が保護者や生徒に必ず言うのが『学校は、生徒が幸せな人生を送る準備をする』ということでした。勉強を頑張って良い大学に入れば優秀な友人に会えるし、良い就職先も見つかるでしょう。でも、人生にはその先もあります。そこをはっきり認識しつつ学校が生徒の選択肢を増やすことは、生徒たちの幸せに繋がっていくと思っています」
パブリックスクールの先生の言葉は、「自分はどういう人生を送りたいのか」ということを、多くの場面で生徒に考えさせる同校の姿と重なります。
松原先生は生徒たちに、世界共通語と言える英語が話せるようになることは、いろいろな乗り物に乗れるようになることと例えているのだそうです。英語を話せない時は、家の中にいるだけ。でも、少し喋れるようになると自転車に乗ることができ、次に車、そして新幹線、飛行機、ロケット......と、自分が行動する範囲がどんどん広がっていくのだと。また、例えば携帯電話の機能が優れていれば使い勝手が良く、楽しさが広がるように、英語もまた世界を広げてくれる道具なのだと。
とはいえ、英語に苦手意識を持つ生徒もいるのではないでしょうか。
松原先生:「ですから、なるべく海外大学に進学した卒業生と繋げるようにしています。その多くが帰国生ではなく、中高時代に頑張って海外プログラムに挑戦し、そこで刺激を受けて海外大学を目指した人たちです。そういう先輩たちが『私、最初は本当に英語ができなかったの』『英語が嫌いだったの』と言うと、後輩たちはものすごく驚くのです(笑)。『だったら、自分にもできるかも』と」
■出入り自由なコミュニティー「イングリッシュサロン」を開設
生徒たちは授業でインプットした英語を、実践でアウトプットする機会が日常生活であまりありません。そこで、松原先生は「イングリッシュサロン」を開設しました。
松原先生:「イングリッシュサロンは、参加するのに事前申し込みは必要なく入退室も自由で、誰でも気軽に参加できるコミュニティーです。何について話してもかまいません。ただ、いきなり英語が上手な人の中に入るのは尻込みしてしまうと思うので、3つのレベルに分けています。『まったくできない・自己紹介はできる・それよりできる』ぐらいの感覚で。『NO PAIN,NO GAIN.(苦は楽の種)』をモットーにしていますが、どのレベルにも調整役として教職員が入っています。また、英語の得意な上級生が後輩の話し相手になる時もあります。下級生には『先輩のようになりたい』という目標ができ、上級生は下級生から刺激を受けるという良い雰囲気が醸成されています」
3つのレベルは、以下のように親しみやすいネーミングとなっています。
① ハッチリング(hatchling/生まれたばかりのヒナ)グループ→初心者
② ダックリング(duckling/アヒルの子)グループ→初心者〜日常会話が可能なレベル
③ ダック(duck/アヒル)グループ→中級者〜上級者
■生徒の「これを英語でやりたい」を実現する「イングリッシュサロン」
1月末には、イングリッシュサロンの特別回として「絵描きよ、英語で語ろう!!」が開催されました。レベルを問わず、絵やイラストを描くのが好きな生徒に呼びかけたものです。
松原先生:「これはイラストを描くのが好きな英語科の教員が担当したのですが、その教員に英語でイラスト愛を語ってもらい、それについてみんなで話したり、イラストの描き方を英語で教えてもらいました。今後も、教員に自分の趣味や特技について語ってもらい、授業以外の一面も見せてほしいと思っています」
今後は英語でトランプをする、英米の子どもの遊びをするなど、生徒の希望を取り入れていく予定です。
松原先生:「初級編から上級編まで、さまざまなプログラムを用意していますが、とにかく生徒には楽しんでほしいのです。楽しくないと、何事も上達しませんから。そのためには教員も楽しまないと」
同校は、学校生活においては学習や行事、クラブ活動や委員会活動、そして友達とのおしゃべりも、すべて等しく大事だとし、人としてのトータルバランスを育む「全人教育」を教育の根幹に据えています。「英語があまり話せない」というたったその一点だけで生徒の選択肢を狭めることのないよう、グローバル教育を以って英語力と会話力を伸ばし、自信をつけて、生徒自身の活躍の場を開拓することができるようにしています。
もちろん、海外に出るばかりではなく、国内においても英語力があれば交流の場は格段に広がり、視界も広がります。「愛と誠実と創造」というスピリットのもと、同校がグローバル教育をアップデートしようとする目的は、まさに、ここにあるのです。



