「試行錯誤する力」を問う相模女子大学中学部のプログラミング入試
2026年2月1日(日)午前、相模女子大学中学部でプログラミング入試が行われました。〈取材・撮影・文/福原将之〉
2026年2月1日(日)午前、相模女子大学中学部・高等部(以下、相模女子)にて第1回プログラミング入試が実施されました。8年目を迎えた同入試は、プログラミングスキルの巧拙を競うものではなく、導入授業・実習・プレゼンテーションを通じて「試行錯誤する力」を見極める、ユニークな選抜方式です。今年度は21名の受験生が全員出席し、車型ロボットの課題に真剣かつ楽しそうに取り組んでいました。 8時に開場した受験生控室には、穏やかなBGMが流れていました。受験生たちはここで集合し、8時35分になると試験会場となる教室へ移動します。教室の机の上には、車型ロボットやiPad、ピンポン玉など、試験で使用する教材がすでに用意されていました。荷物を後ろのテーブルに置き、受験番号のシールを左肩に貼って準備完了です。 「試験中もトイレや水分補給は自由です」という先生からのアナウンスに、少し緊張していた受験生たちの表情がやわらぎました。じっと座って取り組む筆記試験とはまったく異なる入試であることが、この一言からも伝わってきます。「リラックスして存分に力を発揮してほしい」という学校側の想いが、会場全体の雰囲気づくりに表れていました。 8時45分、試験開始。最初のパートは約30分間の導入授業です。教壇に立つのは、中学部校長の中間義之先生ご自身。9名の先生方がサポート体制を敷く中、iPadのスクラッチを使ったロボットプログラミングの基本操作が丁寧に解説されました。 カラー印刷の教材プリントも用意されており、スクラッチのブロックの色が見やすいよう配慮されています。中間校長は受験生たちが内容を理解しているか確認しながらコミュニケーションを取り、実習に影響が出ないよう寄り添った言葉遣いで授業を進めていました。受験生たちは熱心にメモを取りながら、気をつけるべきポイントをしっかりとキャッチしている様子です。 授業の途中、ロボットをぐるっと回転させる動作確認では、コマンド通りに動いたロボットを見て、受験生たちから声に出さない驚きと喜びが伝わってきました。最初は緊張感が勝っていた教室も、このあたりから雰囲気が和らぎ、ワクワクした空気に変わっていきます。 忘れてはならないのは、この導入授業も評価の対象であるという点です。講師の話に耳を傾け、必要なことを記録し、理解しようと努めているか。相模女子が大切にする「柔軟な心」──周囲からの助言に耳を傾け、自らの可能性を信じて挑戦する姿勢──がここでも問われています。手を挙げられない受験生にも、先生方が見回りながらさりげなく声をかけてサポートに入っており、どんな受験生でも安心して取り組める環境が整えられていました。 9時15分、いよいよメインパートであるプログラミング実習がスタート。穏やかなオルゴール曲のBGMが流れる中、50分間の課題に取り組みます。 今年の課題は、車型ロボットをスタート地点からゴール地点まで移動させるというもの。ただし3つの条件があります。立てて置いてある板を机から落とさずに動かすこと、ピンポン玉を机の下に落とすこと、そしてカラーセンサーを1回以上使うこと。コース上には固定された板もあり、立てて置かれた板をロボットで倒してから押し出さないとゴールにたどり着けない設計になっています。 さらに難しいのは、ロボットを手で置く際の微妙な角度のずれが結果に影響するという点です。予想通りにはいかないリアルなイレギュラーにどう対応するか──まさに試行錯誤の力が問われます。黒テープをどこに貼りセンサーをどう使うかという自由度もあり、受験生一人ひとりの個性と工夫が見えるポイントでした。 スタートと同時に、iPadですぐプログラミングを始める受験生、立ち上がってコースを眺めながらイメージを膨らませる受験生、まずロボットを動かしてみる受験生、プリントのメモを見返しながらじっくり考える受験生と、アプローチは実にさまざまです。15分ほどで最初の条件をクリアする受験生が現れ、9時46分には早くも全条件を達成した受験生が手を挙げて先生に成果を見せる場面もありました。 ただし、課題をクリアしたらそれで合格、というわけではありません。この入試はプログラミングの完成度を測るものではなく、課題に向き合い試行錯誤を続ける姿勢そのものを評価する入試です。逆に言えば、時間内に課題を完遂できなくても、それだけで不合格になることはありません。 課題をクリアした受験生には、先生から「残りの時間でセンサーをできるだけたくさん使うようプログラムを改造してください」という追加課題が出され、最後まで試行錯誤が続きます。途中でiPadのソフトに不具合が出ても先生がすぐに対応し、ロボットが机から落ちても替えのロボットがすぐ用意されるなど、何年も積み重ねてきた運営のスムーズさが光っていました。 10時5分にプログラミング実習が終了すると、受験生は4グループに分かれ、プレゼンテーションと基礎計算力テストに臨みます。 基礎計算力テストは例年通りの内容で、筆記試験の算数における大問1の(1)のような計算問題が出題されます。小学校で学ぶ基本的な内容ですので、安心して臨めるものです。 今年のプレゼンテーションには大きな変更がありました。以前は課題に取り組んだ机とロボットを使って実演しながら説明できましたが、今年からは別室に移動し、iPadのプログラミング画面を映したスクリーンと黒板に描かれたコースの模式図だけで説明する形式に。実機がない分、自分の思考や工夫を言葉で伝える力がより一層重要になっています。 プレゼン後の質疑応答でも、それぞれの受験生の頑張りが輝いていました。「自分の取り組みを10点満点で何点だと思うか、その理由は」「今日一番苦労したことと、その原因は」「これまでの小学校生活で試行錯誤が活きた経験は」など、試行錯誤の経験やメンタリティそのものを掘り下げる質問が続きます。言葉に詰まった受験生には先生が助け舟を出しており、プレゼンの上手さではなく、試行錯誤に向き合う姿勢を丁寧に見取っていることが伝わってきました。「板が倒れたときに進路が曲がってしまった」という苦労を語った受験生に「なんで曲がったと思う?」と問いかけ、その受験生がしっかりと自分の言葉で答える場面では、先生の目を見て堂々と話す姿がとても印象的でした。 プログラミング入試の受験者数は2023年・2024年がそれぞれ13名でしたが、2025年に22名に増加、今年も21名と高い水準を維持しています。中間校長にお話を伺うと「倍増した明確な理由はわからない」としつつも、「小学校でのプログラミング教育が普及し、プログラミング体験を持つ児童が増えたことが影響しているのでは」と分析。第2回入試の日程を2月13日から2月4日(水)に前倒しした経緯についても、「得意なことで最後のチャンスに挑戦できるように」と語ってくださいました。 注目すべきは、プログラミング入試で入学した一期生のその後です。入学直後から成績面で下位に固まることはなく、学力試験に代わる選抜方法として機能していることが早期に確認できたそう。卒業後は総合型選抜を活用し多様な進路に進んだ生徒も多く、この入試で評価した力が進学実績にもつながっていることが裏付けられました。興味深いのは、文系・理系の選択が学校全体の傾向と変わらない点。この入試が見ているのは「試行錯誤する力」です。その力は文系・理系を問わず学びの土台となるものなのです。 11時10分、すべての試験が終了し、合格発表の案内が配られました。受験生の皆さん、約2時間半にわたる試験、本当にお疲れ様でした。 相模女子のプログラミング入試は、単なるプログラミング技能の試験ではありません。導入授業での学ぶ姿勢、実習での試行錯誤、プレゼンテーションでの言語化と振り返り──すべてのパートを通じて、「できなかったことが、できるようになる」プロセスに向き合える力を見極める入試です。それは同校のアドミッションポリシーが求める「柔軟な心」そのものであり、8年間の実績がその有効性を裏付けています。 なお、毎年11月・12月・1月に開催される入試体験会では、昨年度の入試を実際に体験することができます。プログラミングが好き、ものづくりが好き、試行錯誤することが楽しいというお子さんには、ぜひチャレンジしていただきたい入試です。穏やかなBGMに包まれた控室──受験生を迎える学校の配慮
校長自ら教壇に立つ導入授業──学ぶ姿勢そのものが評価対象
試行錯誤と創意工夫が光るプログラミング実習
実機なしで「言語化する力」が問われるプレゼンテーション
一期生が実証した「試行錯誤する力」と学力の関係
「試行錯誤する力」は、これからの時代に必要な力
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