2/1pm湘南学園ESD入試は動画・論述・グループワークでその子らしさを見つめる
2月1日(日)午後に実施された「湘南学園ESD入試」についてレポートします。〈取材・撮影・文/福原将之〉
午後の試験会場に集まった37名の受験生
湘南学園中学校高等学校(以下、湘南学園)で2019年に新設されたESD(Education for Sustainable Development=持続可能な開発のための教育)入試。事前に提出する90秒の動画、記述・論述試験、そしてグループワークの3つで合否を判定します。「ありのままの姿を見たい」という想いが込められた入試設計と、受験生たちの生き生きとした姿をレポートします。
この日のESD入試には、男子22名、女子15名の計37名が挑みました。募集定員は15名程度で、倍率は2.5倍です。13時50分ごろには早くも受験生の姿が見え始め、14時30分から出欠確認が行われました。湘南学園では午前にも入試が実施されており、午前・午後と続けて受験する家庭は5割ほどにのぼるそうです。午前入試を受けた受験生と保護者のために、カフェテリアが控え室として開放されていました。午後の試験までの時間をゆったりと過ごせるようにという学校側の配慮が感じられます。
ESD入試の出願時には、「小学校時代に取り組んだこと」と「湘南学園に入学したら挑戦したいこと」について、本人が90秒以内で語る動画を事前に提出します。当日の試験は、14時50分からの「記述・論述」(60分間)と、16時からの「グループワーク」(前半・後半の時差方式)の二本立て。配点は記述問題と事前動画(グループワーク含む)がそれぞれ50%の比重です。従来の教科型入試とはまったく異なる構成に、この入試が「何を見ようとしているのか」への関心が高まります。
情報の読み解きと自分の考えを問う記述・論述試験
14時50分、チャイムとともに試験が始まりました。試験会場は男女別に分かれています。
今回の記述・論述試験では、身近な題材を通じて「情報をどう読むか」を問う問題が目立ちました。公共的な説明とネット上の事例提示を対比して印象の違いが生まれる理由を説明させる問題や、生活に関わる複数の統計資料から変化の特徴を読み取り、背景要因を根拠付きで述べる問題など、いずれも最終的には受験生自身の考えを自分の言葉でまとめることが求められます。メディアリテラシーやデータ分析力、そして自分の意見を論理的に構成する力――まさに持続可能な社会を担う人材に必要な素養を、一つの試験の中で多角的に問う設計です。
会場を見渡すと、広い自由記述欄にみっちりと自分の意見を書き込む受験生が多く見られました。統計資料を分析するために懸命に計算に取り組む受験生の姿もあります。時間が後半に入ると考え込む表情も増え、大人でも唸るような奥深い問いであることが伝わってきます。正解が一つに定まらない、社会課題そのものを扱う問題だからこそ、受験生一人ひとりの思考の個性が答案に表れるのでしょう。
初対面から5分で打ち解けるグループワーク
15時50分に記述・論述試験が終了し、トイレ休憩を挟んで16時からグループワーク試験が始まりました。4部屋に分かれ、各部屋4〜5名のグループで取り組みます。基本的に男女混合の編成で、受験生同士は完全に初対面。名札の番号でお互いを呼び合います。
グループワークのテーマは、学校のことを知らなくても楽しく考えられるよう配慮されたもので、受験生たちが自然と議論に入れる工夫がされていました。まず5分間の個人ワークで、付箋にアイデアを書き出していきます。この付箋を使った発散思考は、湘南学園の普段の授業でも活用されている手法です。続いて一人30秒ずつ、自分のアイデアを発表。その後、約12分間のグループワークに入ります。
ここからの展開は各チームで実に個性豊かでした。出した付箋をカテゴリーに分けて整理するチーム、お互いのアイデアの良いところを発表し合うチーム、書記が模造紙にどんどん新しい意見を書き足していくチーム。司会・書記・タイムキーパーと役割分担を決めるグループもあれば、自然発生的にフラットな議論が始まるグループもありました。
印象的だったのは、初対面の緊張が5分もしないうちに解けていく様子です。うなずきながら共感を示す受験生、沈黙の場面で勇気を出して口火を切る受験生、アイデアの共通点を見つけてコンセンサスを取ろうとする受験生、材料や実現可能性について問題提起する受験生――それぞれの持ち味が自然と発揮されていました。現実的な運営面の話と自由な発想が混ざり合い、異なる視点からの意見が次々に飛び出す場面もありました。その様子を真剣な眼差しで見取る試験官の先生方は、おそらく受験生が入学した後の姿をイメージしながら評価されているのではないでしょうか。
「あと2分ですよ」というアナウンスが入り、終了の合図があると「おー!」と歓声が上がりました。まだまだ話し足りなさそうな表情を浮かべる受験生たち。初対面だったとは思えないほど打ち解けた空気が、教室に満ちていました。
試験終了後、保護者の待つカフェテリアへ案内される受験生たちに「お疲れ様でした」と声をかける先生方。受験生たちは試験官の先生にとても良い笑顔で返事をして帰っていきました。
「ありのままを見たい」、教頭・佐伯先生が語るESD入試の狙い
教頭の佐伯佳奈子先生は、ESD入試の問題や評価基準が非公開である理由について「事前に対策をされてしまうと、受験生のありのままの個性や潜在能力を見出すことが難しくなります」と話されます。以前はSDGsの17ゴールからテーマを出題していましたが、それを勉強してくる受験生が出てきたため、より広範な「持続可能性」に関するテーマへと変更しました。「既存の枠にとらわれない"キラッと光る素材"を持った生徒に出逢いたい」という想いが、入試設計の根幹にあります。
事前動画を90秒に設定している点については「生徒の"思い"を見るには十分な時間です。動画のクオリティではなく、小学校で何を頑張り、湘南学園でどう活躍したいかという中身を重視しています」とのこと。グループワークは動画だけでは見えない協働性を補完するために導入されました。「動画ではしっかり話せても、グループになると黙ってしまう子もおり、逆もまた然りです。そうした多面的な個性を見たいのです」と語ってくださいました。
実際にESD入試で入学した生徒たちは、探究活動や部活動、生徒会活動などさまざまな場面でリーダーシップを発揮し活躍しているそうです。入学前に語った興味関心とは異なる分野で才能を開花させる生徒もいるといいます。この入試は、入学後に生徒がどう活躍するかをシミュレーションできるよう設計されているのだと、取材を通じて実感しました。
入試対策より「親子の対話」を――来年度の受験生へ
佐伯先生のお話を通じて強く感じたのは、ESD入試の本質的な「対策」は、問題の型を繰り返し解くことではないということです。湘南学園のアドミッションポリシーが掲げる、自分の力で考え主体的に行動する力、知的好奇心、他者と協働する力、社会の課題を多角的にとらえる力――ESD入試はまさにこれらの資質そのものを見ています。
では、その力をどう育めばよいのか。過去問の対策ではなく、日々の親子の対話こそが最も効果的だと感じます。ニュースを見て正解のない問いについて話し合う。子どもが学校生活で感じたモヤモヤに耳を傾ける。子どもの意見を否定せずに、まず受け止める。自分の気持ちや考えを言語化する機会を日常の中でつくっていく。ロジカルシンキングや他者を説得する力、メディアリテラシーといった素養は、こうした対話の積み重ねの中で自然と育まれていきます。
湘南学園のESD入試は、従来の教科型入試では見えにくい受験生の個性と可能性を引き出す、「入学後の活躍をシミュレーションする」ものでした。関心のある方は、ぜひ湘南学園の学校説明会や体験入学イベント(4・5年生対象)に足を運んでみてください。今後も湘南学園の教育実践に注目していきたいと思います。
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